Squier Classic Vibe ストラトのメンテ記事第二弾です。
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取り外したナットです。茶色いのは接着剤。
ナットというのはブリッジサドルと共に弦が振動する基点となるパーツですので、ここの素材や出来が変わればギターの音も変わってきます(良し悪しは別として)
なので意外と大事なパーツです。
さて、この牛骨ナットを交換するわけですが、ブランク素材を用意してイチから作り出す技術もスキルも道具すらも持ち合わせていませんから、必然的に成形済み・溝切り済みのナットを選ぶことになります。
成形済み・溝切り済みのナットはいくつかのメーカーから販売されていますが、別段壊れているわけでも無い牛骨ナットを、わざわざお金を掛けてをプラスチックナットに交換する物好きはいないでしょう、きっと。
すると多くの場合で選択肢として残るのはGraphtechのTUSQ素材で作られたナットになるんじゃないかと思うんです。
私がギターを弄るときもよほど特殊なサイズのナット(40mmとか)で無い限りはTUSQナットを選択します。
というわけで本題に入りますが、並行してTUSQナットについての説明もしていきます。
断っておきますが、別にGraphtech社の回し者じゃありませんよ。好んで使っているアイテムというだけです。
TUSQはギターの弦の周波数帯域を無駄なく最大限に引き出し、澄んだ高音から深みのある低音まで幅広いサウンドを得ることが出来ます。高音・高圧で精密に製造されたTUSQは、自然素材の牛骨や象牙と違い100%一定品質です。
TUSQナット パッケージ裏面から引用
要するに、一般的にギターのナットに使われている牛骨や高級品の象牙なんかは天然素材なので製品にバラツキがあるし、同じナットでも右隅と左隅では密度や硬度が異なるかもしれない。
対して人工的に作られたTUSQは製品にバラツキが無く常に一定の品質が保たれる。
その結果、サウンドにもイイ影響が出ますよ。
ということでしょうか。
また、TUSQにはTUSQ XL と BLACK TUSQ XL というバリエーションがあります。
パッケージの説明文を読む限り基本的な部分はTUSQと同じなんですが、追加されている一文も見受けられます。
TUSQ XLは弦が振動する度にテフロンのマイクロ分子が放出されます。この分子によって被われたナットは、弦の摩擦を最大限に抑えることにより、チューニングの狂いを少なくします。この分子は、ギターを演奏している限り永久に滲出され潤滑するので、アグレッシブな演奏やトレモロ、激しいアーミング時にもチューニングを気にせずプレイに集中できるでしょう。
TUSQ XL ナット パッケージ裏面から引用
弦の振動によりテフロンのマイクロ分子が放出されるんだって、それも永久的に。すげー。
実際に私も使っていますが正直よく分からんというのが本音です。同じギターにTUSQとTUSQ XL を取り付けて同じセッティングで長期間弾く比べてみれば体感できるのかもしれませんが。
BLUCK TUSQ XLというのはTUSQ XLの色が黒くなったもの。
以上がTUSQ(XL)という素材についての説明です。
で、今回もこのTUSQナットに換えるわけですが、問題になるのがナットのサイズ。TUSQナットにも様々なサイズ設定があるので、自分が必要とするナットのサイズと適合するサイズのナットを買わないといけません。
今回外したナットのサイズは以下の通りです。
横の長さ 42mm
厚さ 約3.0mm
高さ 約5.0mm
E to E 約33.5mm
それではTUSQナットのラインナップの中から適合しそうな物を探してみます。
横 | 厚さ | 高さ | 弦間 | |
オリジナル | 42.00mm | 3.00mm | 5.00mm | 33.50mm |
PQ-5010-00 | 44.81mm | 3.30mm | 6.48mm | 34.59mm |
PQ-5042-00 | 41.98mm | 3.22mm | 4.98mm | 35.25mm |
PQ-5000-00 | 42.93mm | 3.26mm | 5.08mm | 35.05mm |
5010 / 5042 /5000 と3種類をピックアップしてサイズを比べてみます。
数値だけでは心許ないので実物とも合わせてみましょう。
数値上でも実際の比較でも5042-00が最も適切のように思えます。
が、しかし
ナットを選ぶ際に最も重視するべき数値は弦間なんです。
そりゃ高さも幅も厚さも大事ですよ。でも足りないならともかくオーバーしている(余る)のであれば削れば済むことです。
ところが弦間はどうにもならんのです。前述したようにナット溝を自在にどうにか出来る技術と工具があるならブランク素材から自分で好きに作ります。成形済みのナットは買わんのですよ。
高さや幅や長さは自分でも削れますが、弦溝を切るのだけは道具もスキルも無い私にはどうにもできんのです。だから溝切り済みの成形ナットを買うわけです。
なので溝切り済みのナットを購入する際に最も重視すべきは弦間になるわけです。
これら3種を全てギターに取り付けて一度に比較することは今回は出来ませんので、過去の経験談を基に書かせて頂きますが、
最も縦横高さのサイズが合う5042-00は、恐らく無加工でポン付けできるはず。ポン付けなので手間は掛からないのですが、弦間が広すぎて違和感を覚えると思います。1弦と6弦が弦落ちしそうな感覚に苛まれます。チョーキングやベンドの仕方によっては実際に弦落ちします。
5042-00はナット幅43mmや44mmのギターに適しているというのが色々弄ってきた結論です。
次に合いそうなのは5000-00でしょうか。横幅こそ約1mmオーバーしますが厚さと高さは微妙な違いで場合によってはポン付けも出来そうです。
ですが上の画像を見て頂けると分かるようにやはり弦間が広いんです。結構違うよね。
私は実際に42mm幅のナットの代用として使ったことがないので断言は出来ないのですが、5042-00ほどではないにしろやはり違和感を感じるんじゃないかと思います。
また5000-00はカーブドボトムなんですね。ナット部分にも指板のラジアスが適用されているタイプのギターに合わせるように作られています。
フラットボトムの代用にならないわけでは無いんですよ。別に使ったって良いと思うのですが、今回は弦間の問題から見送り。
ちなみに「安ギターに付けました、ピッタリ」というレビューを散見しますが、具体的にどんな安ギターにピッタリだったのかを記載してもらえると凄い有り難いよね。私の手持ちの42mmナットの安ギターにはピッタリとはいかなかったので。(レジェンド・Mavis・プレイテック)
ということで消去法で残ったのが5010-00となります。
横幅も高さも厚さもずいぶんとオーバーですが弦間だけでは僅かに広くなっただけで済みそうです。
並べて比べてみても5000-00ほどの違いは無さそうでしょ?
後出しでスイマセンが、私が42mmナットの代用として選ぶのは毎回この5010-00です。
とはいえ弦間が変わることは間違いありませんから、慣れ親しんだギターだと違和感を覚えるかもしれません。今回は購入したばかりで通算で1時間も弾いていないギターですから気軽に交換できますが、愛用している大切なギターの場合は慎重な判断が必要になると思います。
では、5010-00を取り付けるために加工していきます。
加工に必要なのはサンドペーパー。ダイソーとかで何枚かセットになっているヤツで十分です。
数字が大きくなるにつれて目の粗さが細かくなっていきます。
目が粗いものだとガリガリと早いペースで削れますが、調子に乗って削ってると削りすぎてしまいます。
目が細かい物はスリスリと少しずつ削れていきますが、たくさん削ろうとする場合には時間がかかりすぎてしまいます。
私はせっかちなので金属用の布ヤスリ、番手60でガリガリと削ってしまいますが、どの番手を使うかは各自の判断で。
削るときのコツは、平らな場所で作業すること、均等に削れるように均等に力を掛けること、小まめに確認すること、この3点。
ナットという小さなパーツを手で押さえつけるので力の掛け具合が難しいです。「均等に」を意識しながらでないと偏った削り方になってしまいがち。
また、少し削っては確認、また少し削っては確認、を繰り返すことで削りすぎや偏りといった失敗を防げます。
とはいっても慣れるまでは失敗すると思います。私も過去に何本もの新品ナットをゴミ箱に捨ててきました。
未だに新品ナットは予備が1個ストックできるように買ってます。1本は失敗するのが前提なんです。
というわけでチャレンジする方は気長に焦らず頑張ってみてください。
削ること約10分でこんな感じ。
これで完成ではありません、これだとたぶん高さがありすぎてローポジションが弾きにくいはず。微調整は弦を張ってチューニングを合わせてからです。外して削り、削って取り付けを何度か繰り返して完成となります。
ここまでやるなら弦溝も自分でなんとかしたいんですが、年に1~2度あるかないかの作業のためにフレットファイルを揃えるのがどうもねぇ。
ナットと同時にフレットと指板のメンテも終えたので次回はボディ側の予定です。